東京都公文書館の重要な機能の一つに、来館者又は電話・郵送による様々なお問い合わせ、ご質問に対する回答業務があります。資料の所在確認から、江戸・東京の歴史に関する疑問までその内容は多岐に渡りますが、それらをまとめて当館ではレファレンス業務と呼んでいます。
このうち、史料編さん係が対応したレファレンス事例については昭和五十六年度以来の記録を保管し、データベース化を進めてきたところです。同じお問い合わせ又は関連したご質問に対して、できるだけ迅速かつ正確な応答をするために始められた試みですが、平成十四年末、その件数は一八○○件を上回りました。そこに蓄積されたデータから読み取れる質問内容・時代区分・参考文献・回答要旨等は、今では当館全体にとっての貴重な財産となっています。
そこで、このレファレンスデータベースを活用し、これまで寄せられたご質問の数々にお答えしつつ、江戸・東京の興味深い歴史を発見していただこうと企画したのが、本書『レファレンスの杜-江戸東京歴史問答』です。
当館に寄せられるご質問の内容は多岐に渡り、ご先祖探しなど個人的なものも少なくありませんが、本書はそれらの中から繰り返しレファレンスのあった江戸東京史の基本事項や、調査回答の過程で意外な発見のあった事柄等を組み合わせ、十六の章を立てました。
ところで、当館では所蔵資料展や公文書館講座といった普及活動を通して、都民の皆さまが東京という都市の歴史について、たいへんに深い関心を寄せられていることを実感してきました。しかもたんに受身で知識を得るというに止まらず、自らの問題意識から生じた疑問を自ら調べ、探求していくという積極的な志向性を多くの方々が持たれています。
本書はそのような歴史探求の二ーズにおこたえするため、百問百答的な短い事実の羅列とはせずに、ある程度の分量をもった歴史読み物として構成しました。その内容は、各章末に掲げた参考文献を中心に、当館の所蔵史料や編さん刊行物を利用して書き上げたものです。いわば、レファレンス回答の手の内を見せたものともいえるでしょう。読者の皆さんの中から、本書の叙述に刺激を受け、自ら図書館や公文書館等を利用し、ご白身の疑問をご自身で解決しようとする方が出てこられたなら、これに勝る幸せはありません。
なお、本書は東京都も参加している、「江戸開府四〇〇年記念事業」の一つとして企画したものです。この記念事業のテーマである「江戸東京四〇〇年の魅力の再発見と未来への創造」の趣旨にいささかなりとも寄与することを切に望むものです。