都史紀要38 東京の歴史をつむぐ-草創期の東京市史編さん事業-
はしがき
東京都公文書館では、資料集『東京市史稿』およびその姉妹篇ともいえる『都史資料集成』の編さん刊行を行っている。この事業は、都の歴史記録の基となる行政文書を中心とした基礎資料集の編さんを行うもので、東京の歴史をあとづける事業である。『東京市史稿』は、明治44年に『皇城篇』第1巻を発刊してから平成12年度までに、市街・産業・港湾篇など、10篇167巻を刊行、ほかに付図や臨時刊行物も刊行しており、一つの都市の歴史に関しては、世界に類を見ない息の長い史料編さん事業である。
これらの資料集は、江戸・東京に関する基本文献として研究者からの専門的な問い合わせ、マスコミ等からの調査依頼、そして都民の自発的学習・研究のサポート、都政史や庁内各局の事業史、区市町村への情報提供の役割を果たしている。
東京市史編さん事業は、明治34年の東京市参事会への中鉢美明の建議にはじまるが、その目的のひとつに、歴史資料として重要な行政文書の散逸防止がうたわれており、編さんにあたっては、本篇に先んじて、資料篇の編さんが優先された。昭和63年に公文書館法が制定されてから、歴史資料である行政文書の保存・利用については、ますますその重要性が認識されるようになっているが、こうした資料の収集・保存重視の方針は、現在のような公文書館制度が確立されていなかった時代状況のなかで、先駆的ともいえる見識であったといえる。
この事業が開始された当時、日本では市史と呼ばれる自治体史編さんは、ほぼ同時期に発足した大坂市史を除いて、お手本となるべきものはなかった。本書では、編さん事業草創期に焦点をあて、これまであまりふれられていない『東京市史稿』皇城篇第1巻発刊に至る具体的な事業展開の実態、そして東京の歴史を集め、つむぐ困難な事業に従事した塚越芳太郎ら草創期の編さん者たちの足跡とともに、編さん対象時期・調査範囲・執行態勢など編さん事業のありかたをめぐる論議に注目し、草創期の編さん事業が抱えていた課題を明らかにしていきたい。
なお、東京都の史料編さん事業全般にわたっては、『都史紀要27 東京都の修史事業』(昭和55年)が刊行されているので、あわせて参考にしていただければ幸いである。
東京の歴史をつむぐ 目次
Ⅰ 最初の東京市史編さん事業計画 (1)
Ⅱ 資料集『東京市史稿』刊行への道のり (18)
Ⅲ 都政のあゆみをあとずけ、未来へつなげるために(106)
参考資料