都史紀要シリーズの四二冊目、『江戸の広小路-その利用と管理』をお届け致します。本シリーズは前巻から仕様と構成を改めましたが、本書もこれを踏襲して、第Ⅰ部 史料編・第Ⅱ部 調査研究編という構成になっています。
江戸には広小路とよばれる一般の街路より幅広く作られた街路がありました。その多くは火災の延焼防止のため「
これらの広場は、本来的には火除地としての機能をもちますから、恒久的な建造物は建てることができませんでした。しかし、往来の激しい橋詰や、多くの参拝者を集める寺社門前に設置された広小路には、移動や撤去の可能な床店が建ち並んで商品の取引が行われたり、市場が形成され、また大道芸のほか、葭簀張で囲われた小屋での芸能興行が行われるなど、盛り場として発展した場所も多かったのです。
現在も名を残す繁華街としては上野広小路がなじみ深いかもしれませんが、本書では江戸最大の盛り場となっていった両国橋東西の広小路に対象を絞りました。幸いなことに両国橋及びその東西の広小路に関しては、町奉行所等から東京府に移管された史料群、旧幕引継書の中に関連史料が豊富に残されています。本書の第Ⅰ部ではこの中から「両国橋東西広小路書留」・「役船」各四冊を翻刻しました。
第Ⅱ部 調査研究編では、まずこれらの史料についてアーカイブズ学的な検討を加えた上で、両国橋と広小路の維持・管理のあり方、広小路における諸営業の実態とに分けて分析を加えています。
詳細は本編に譲りますが、江戸という都市の中で、橋そのものの保全管理や、広場一帯の警備といった「公共的」業務がどのように担われたのかがきわめて具体的に明らかになります。また、こうした管理業務を特定の請負人に委ね、その負担に見合う助成として、広小路で展開される営業活動から「場銭」「庭銭」の徴収を認めるという方式が採用されていたおかげで、民衆世界に生きる人々の日常的な商業活動の実相にも光を当てることができました。
特定の場に対象を絞り、そこで展開されるさまざまな活動と社会関係を掘り下げていくという、都市史研究の方法を味読していただけるものと考える次第です。
なお、本書で翻刻した史料を含む旧幕引継書は明治二十七年(一八九四)に当時の東京図書館に「永久寄託」となり、現在は国立国会図書館で保管され利用に供されています。また、東京都公文書館では紙焼き製本したものを閲覧に供していますので、あわせてご利用いただければ幸いです。
本書の執筆は、小林信也が担当しました。