東京都の修史事業は、明治以来、旧東京府・市の事業を継承して今日に及んでおり、着手以来すでに八十余年の歴史をもつ。その大宗をなす『東京市史稿』は、明治四十四年に第一冊を発刊してから現在まで一〇篇一三一巻、別添附図四二点を刊行、ほかに史料覆刻その他全刊行書は二五〇巻余に達し、都市の修史事業に特異の存在となっている。
これらの事業は、府・市を通じ、臨時的事業として運営されてきたが、昭和二十七年、都政史料館を設置し、修史事業を主体として一部公文書を含む都政史料の保存事業を併せ行うこととなった。このことは都の修史事業に新紀元を画するものであった。さらに四十三年、東京都公文書館の設置に伴い、その事業はすべてここに発展的に改組継承せられて現在に至っている。
この間、事業の進展には、う余曲折があり、決して平坦ではなかった。本篇は主として現在公文書館に保存せる「市史編纂関係書類」その他関連記録類によって、事業展開の経過をたどらんとしたものである。残された関連史料が十分でないため、細部について判然としない点も多多あり、また触れるべくして触れえなかった事項も少なくない。都史との関連に留意しつつ、無意識の美化と主観に陥入ることを極力避け、できるだけ史料をして語らしむるようにつとめた。ここに、われわれは、虚心に事業のあとをかえりみ、将来のあるべき姿について真剣に検討するよすがともしたいと考えている。本篇の調査・執筆は菊池昭が担当した。