都史紀要2 市中取締沿革

はしがき

幕末から明治初年にかけての江戸は混乱の状態で、従来幕府のもっていた警察制度では手の下しようもない事態が次々に起った。

幕府は手兵や諸大名の兵を動員してその取締りに当てたが、形勢の切迫するに従って、江戸の治安の乱れも甚だしく、当局者も狼狽の姿で、対策にも方針確立の暇もなく只有たけの兵を繰り出してそれに当てたような形である。

維新後東京となっても治安状態は依然たるものであり、新政府も未だ方針が定まらず大体幕府時代に做って旧旗本や諸大名の兵を用いて市中取締りに当たらせた程度で、明治四年廃藩置県が行われ、それに伴って東京に邏卒の制度の置かれるまでは、全く混乱の時代であった。この混乱の中から、十分でない資料にたよって筋道を掴むことは困難な仕事であって、それを志したこの「市中取締沿革」も到底十分のものとは云えない。前に謄写版で刊行したものを此度活版にするに当り補正を加えたけれども、なお及ばない点は少くない。

これに次ぐ時期の邏卒制度は別篇とする。また幕末から明治初年は攘夷思想の影響で外人警衛が重大問題となり、幕府はそのため別手組を設け、それが明治初年まで続いたが、これも別篇としてまとめる予定なのでこゝには省いた。

昭和二十九年三月
都政史料館にて 鷹見安二郎

目次

はしがき
第一章 幕末の市中取締(1)
第一節 幕府の治安状態(1)
ペリーの来航と江戸の恐慌(2) 桜田門事件(6) 坂下門事件(8) 排外的諸事件(9) 生麦事件の賠償要求と江戸の恐慌(11) 江戸近在の不安(14) 毛利藩邸の没収破壊(15) 窮民の騒動(17) 新募幕兵の暴行(18)
第二節 幕末の市中取締(24)
江戸平時の警察制度(24) 幕兵の江戸昼夜廻り(27) 新徴組と大名の市中取締(28)幕府諸隊士及諸大名の市中巡邏(32) 武家地の関門設置(37) 江戸最後の警備体制(38) 町兵取立計画(52)
第二章 過渡応急の時期(59)
第一節 官軍入城当時の江戸(59)
徳川慶喜の大政奉還(59) 東征軍の進撃(63) 恭順、主戦両派の対立(66) 江戸市民の鎮撫(69) 勝と西郷の和平交渉(70) 江戸市中の騒動(74) 官軍の江戸城接収(75)
第二節 旧幕府方による市中取締(80)
旧町奉行の市中取締(80) 田安、大久保、勝へ鎮撫取締方委任(82) 勝海舟の意見提出(82) 徳川方の市中取締解除(85)
第三節 市制裁判所時代の状況(86)
彰義隊の討伐(86) 鎮台府と市政裁判所の設置(89) 当時の治安状態(93) 辻番・自身番・木戸番の廃止(96) 町兵取立願(98)
第四節 市制裁判所附兵隊(101)
大久保與七郎の伺書(101) 市制裁判所附兵隊の組織(104) 制服及標識(108) 市制裁判所兵隊規則(110)
第三章 諸藩兵による市中取締(112)
第一節 東京府とその捕亡方(112)
鎮将府と東京府の設置(112) 東京府職制(113) 捕亡方(116) 捕亡方の任務(118) 捕亡方の経費(121)
第二節 東京府附属市中取締隊長(126)
市中取締諸藩隊長任命(126) 取締隊長履歴(130) 警備区域の分担(136) 市中取締の勤方(138)屯所、関門の取立(143) 旧旗本兵の採用(147) 市中取締兵隊の経費(154) 市中取締の改正と隊長罷免(156)
第三節 諸藩の市中取締(160)
天皇東臨と東京の治安(160) 市中取締区画の改正(163) 市中取締触頭(169) 市中取締区画表(171) 市中取締の兵数(176) 軍務官による取締諸藩の進退(179) 市中取締規則(183) 取締強化と人別改の励行(187)
第四節 府兵制度(190)
東京府の建白(190) 府兵六大区(193) 大区兵隊総長(198) 府兵規則(206) 市民自警励行(209) 府藩県の兵制(212) 捕亡方の廃止と府兵局の設置(214) 断獄局規則と断獄掛勤方(217) 聴訴断獄事務の司法省引継(220) 三府并開港場取締心得(221)

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