史料解説~博覧会へのいざない

京都府からの依頼は、明治八年(一八七五)三月一日から開催する第四回京都博覧会のチラシを東京に在留する外国人に配布して欲しいというものでした。

京都博覧会のはじまり

明治四年(一八七一)十月十日から十一月十一日にかけて、日本初の博覧会が京都西本願寺で開催されました。三井八郎右衛門、小野善助、熊谷久右衛門の豪商三人が会主となり、明治維新後の東京奠都によって活気を失ってしまった京都に賑わいを取り戻そうと企画したもので、会期三十三日間に一万一千人余が来場しました。これを機に、京都府と民間が合同で京都博覧会社を設立し、以後昭和三年に至るまでほぼ毎年、京都博覧会が開催されました。

外国人誘致

京都博覧会社主催による第一回京都博覧会(明治五年(一八七二)三月十日~五月三十一日)には、七百七十人の外国人が来場しました。

当時、外国人は「外国人遊歩規程」により、自由に行動できる範囲は、居留地とそこから十里(約四十キロ)以内と定められていました。もし、外国人がこの遊歩区域外に出たいときは、外務省に申請し「内地旅行免状」を発給してもらわなければなりませんでした。

京都府は、外国人にも博覧会に来場してほしいと考えていましたが、京都は大阪の川口外国人居留地から十里外に位置していました。そこで京都府は、出来れば海外の精巧な器物も出品して貰いたいので博覧会期間中に限り外国人の入京を許可して欲しいと政府に申請し、許可を得ました。今回の史料中に「前三年の挙と同しく…此間は外国人の入京を許し、且つ会場に展覧之為出品せしむへし」の記述があるように、翌年以降の京都博覧会においてもこれと同様の措置が取られました。

明治六年(一八七三)の第二回京都博覧会開催に際しては、英文ガイドブック"The Guide to the Celebrated Places in Kyoto & the Surrounding for the Foreign Visitors"が作成されています。その中で、開催会場である御所*について、「博覧会開催までは、公家や高官以外入ることが許されなかった。それゆえに、人々はこの機会に御所を訪れることを切望している(日本語訳)」と記されています。京都御所は、江戸時代までは、庶民でも立ち入ることが出来ましたが、明治維新後庶民の立ち入りは禁じられました。そのため、博覧会は、普段は入ることが出来ない御所に立ち入ることが出来る特別な機会であることを強調したのでしょう。実際、日本人来場者数は、第一回の三万八千人余から七十万七千人余へと飛躍的に増加しました。しかし、外国人来場者数には大きな影響はなかったようで、第一回よりも減少しています。

*博覧会場については、第一回は本願寺・知恩院・建仁寺、第二回から第九回までは大宮御所・仙洞御所(現京都御苑内)。明治十四(一八八一)年の第十回からは、京都御苑内東南の一角に建設された常設の博覧会場を使用。明治三十年(一八八七)年には岡崎(現左京区)に博覧会館が建設され、大正三(一九一四)以降は岡崎の京都市勧業館が会場となった。(京都歴史資料館情報提供システム フィールドミュージアム京都「都市史29京都の博覧会」

欧文引札

引札とは、広告として配布された印刷物、つまりチラシです。

こうしたチラシが、前三回の博覧会開催においても外国人に配布されていたのかどうかは不明ですが、下表のように、外国人来場者数は第一回から二回、三回と回を重ねるごとに減少していました。そのため、第四回開催にあたって、外国人に広く周知する目的で欧文引札を作成したのかもしれません。しかし結果は、四百五名と前回よりも減少しています。

(表)第一回から第四回までの会期と外国人来館者数
会期     ( )内は日数 外国人来館者
第一回 明治5年3月10日~5月31日( 80日) 770人
第二回 明治6年3月13日~6月10日( 90日) 634人
第三回 明治7年3月 1日~6月 8日(100日) 517人
第四回 明治8年3月 1日~6月 8日(100日) 405人

史料の英文で記された引札を見てみると、明治は"Meiji"ではなく"Meidzi"、京都も"kyoto"ではなく"Kioto"になっているなど、現在とは異なる綴りになっています。

参考文献

  • 京都博覧協会『京都博覧会沿革誌』明治三十六年
  • 工藤泰子「明治初期京都の博覧会と観光 」『京都光華女子大学研究紀要』46, 77-100, 2008-12

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