(史料出典:『明治二年十二月 言上帳』)
同日 一 赤坂表伝馬町壱町目善次郎地借 湯屋伊助同町金右衛門地借辰次郎申上候 一昨廿九日暮六時頃同人義伊助方江入湯ニ 罷越揚場棚江脱置候着類弐太織半天 壱木綿繻伴壱紺木綿腹掛壱鼠 呉呂服連細帯壱筋被盗候跡ニ木綿 白茶竪縞古単物同藍弁慶縞綿入半天 壱浅黄木綿繻伴壱紺足袋壱足木綿 中形胴〆紐壱筋残有之候ニ付則持参為 御訴申上候由右之伊助辰次郎町年寄 宗八申来候 右品取上已来心当りも有之候ハヽ可 訴出旨申付之
同日(明治二年十二月一日) 一 赤坂表伝馬町壱町目善次郎地借り 湯屋伊助、同町金右衛門地借辰次郎申し上げ候 一昨廿九日暮六時頃同人義伊助方え入湯に 罷越、揚り場棚え脱ぎ置き候着類弐、太織半天 壱、木綿繻伴壱、紺木綿腹掛壱、鼠 呉呂服連細帯壱筋盗まれ候、跡に、木綿 白茶竪縞古単物、同藍弁慶縞綿入半天 壱、浅黄木綿繻伴壱、紺足袋壱足、木綿 中形胴〆紐壱筋、残しこれあり候に付きすなわち持参、 御訴のため申し上げ候由、右の伊助、辰次郎、町年寄 宗八申し来たり候 右品取り上げ、已来心当りもこれあり候わば 訴え出づべき旨これを申し付く
一昨29日(明治2年11月)暮六ツ時(午後5時)頃、赤坂表伝馬町一丁目(現在の港区元赤坂一丁目二番地辺)の善次郎さんの土地を借りて湯屋を営む伊助さんのところに、同じ町内に住む辰次郎さんが湯に入りに来たのですが、脱衣所に置いた衣類が盗まれてしまいました。
盗まれたのはキモノ二枚に太織半天一枚、木綿の襦袢一枚、紺木綿腹掛一枚、鼠色の呉絽服連(ゴロフクレン=舶来の粗羊毛を用いた織物)細帯一筋の計六点でした。
跡に残されていたのは、木綿白茶色の竪(たて)縞の古い単(ひとえ)物、木綿の藍弁慶縞綿入り半天が一枚ずつ、浅黄色の木綿襦袢一枚、紺足袋一足、木綿中形(ちゅうがた=浴衣によく用いられる型染めの布地)胴〆紐一筋の計五点です。
盗難を届け出たのは伊助さんに辰次郎さん、それと町年寄の宗八さんです。
残された衣類の中に綿入れが含まれていたのがせめてもの慰めですが、盗まれた着物と比較するとだいぶ見劣りするようです。
湯屋での盗難及び紛失というのは言上帳に頻繁に出てきます。他の史料では下帯(=いわゆるフンドシ)を盗まれた例もあります。盗難にせよ紛失にせよ、真冬に家までどうやって帰ったのでしょう?衣類を借りたのでしょうか。実に気になるところです。
こうして手許に残された衣類も、事件の手がかりとして東京府へ取り上げとなり、心当たりがあったら訴え出るように申し渡されます。盗まれた人にとっては全く災難でした。