第4章 現行制度の運用状況と制度的課題

第4章 現行制度の運用状況と制度的課題

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第3 給与制度

1 給料表

1.給料表の趣旨

地方公務員法によれば、人事委員会を置く地方公共団体は職階制を採用し、これに基づき給料を支給することとされているが、現在に至るまで職階制は導入されていない。
この職階制に代わり実質的にその役割を果たしているのが、職務給を基本とする現行の給与制度であり、職階制における職種については職務の内容に応じて定められている異なった給料表が、職務の責任の度合いや複雑さの程度については給料表上の級や級別標準職務表などがそれぞれ対応している。このように、給料表は他の給与制度とあいまって、職責に応じた職員給与の実現を目的としたものである。

2.給料表の沿革

昭和32年度に、それまで国に倣って適用していた「通し号給制」給料表から、職務に応じた給料を実現するために「等級制給料表」への切替えを行い、6等級制の給料表を導入した。その後、職の多様化、高度化等に対応するため、人事制度の改正にあわせ、昭和56年度には「特4等級(総括係長)」を、昭和61年度には「特3等級(統括課長)」及び「特5等級(主任)」を新設するとともに、平成元年度には、職務の級の呼称改正等を行って現在の10級制給料表に至っている(図表3-1-1)。

3.制度的課題

給料表は、それぞれの時代における社会情勢等の変化や人事制度上生じた問題点克服のために、必要に応じて、数次にわたってその構造を改めてきた(図表3-1-2)。
給料表の構造は決して普遍のものではなく、むしろさまざまな変化に対応した人事制度の改正に伴い、当然に見直されるべきものであり、近年の人事委員会の給与勧告においても、昇給カーブの「早期立ち上がり型」への修正を継続している。
他方、東京都においては、給与改定に当たって民間との水準均衡を原則としており、そのため、現在のような低率ベアの状況において給料表の大幅な見直しを実施することは容易ではない。
しかし、職務の権限と責任に応じた処遇を実現するという観点から、給与制度の根幹をなす給料表の構造自体についても、検討していく必要がある。

2 初任給(経験年数加算)

1.制度の沿革

初任給の決定においては、採用前の職務経験、基準学歴以上の修学年数等何らかの経験のある者に、一定割合を加算することができる。
職務経験加算については、従来、官公庁と民間で換算率が異なっていたが、平成6年度から官公庁経験と民間経験を同等に評価することとし、いずれも同種10割・異種8割換算とした(図表3-2-1)。
学歴加算については、昭和61年度に「学歴主義から学力主義へ」という考え方に立ち、採用試験区分の基準学歴を超える学歴について加算、基準学歴を下回る学歴について減算していた修学年数調整制度を

2.制度運用の状況

職務経験加算の状況をみると、特に民間経験において、「異種」に区分しているケースが相当程度見られる。なお、時代背景の変化とともに、「同種」「異種」の判定基準も変化してきている。
学歴加算についてみると、新規採用者のうちおおむね半数程度で何らかの加算が行われている。

3.制度的課題

都民ニーズの多様化・複雑化など、都を取り巻く環境の変化に伴い、職員の職務内容も変わりつつあり、現在「異種」と判断しているものであっても、職務に一層密接な関連があるものとして評価できるケースも多くなっている。職員採用における応募意欲の喚起、優秀な人材の確保のためには、前歴をより適切に評価し、初任給に反映させることが重要であり、経験年数加算における経験職種の異同による換算格差について見直す必要がある。
また、優秀な人材の確保という観点から、高いレベルの技術や知識を有する大学院修了者の取扱いについても検討する必要がある。

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経験年数換算表

3 昇給

1.制度の趣旨

昇給とは、給料表の同じ職務の級内において、現に受けている号給より1号給以上上位の号給に変更することをいう。その意義は、一定期間良好な成績で勤務した職員に対し、その努力に報いるとともに、職員の勤労意欲の向上を図り、あわせて職員の生計費の上昇をカバーするところにあるとされている。
昇給の種類としては、普通昇給と特別昇給の二つがある。
普通昇給とは、職員が現に受けている号給を受けてから通常1年間、良好な成績で勤務した場合に1号給上位に昇給させるものである。
特別昇給とは、職員の勤務成績が特に良好な場合において、昇給期間を短縮し(成績特別昇給等)、もしくは2号給以上上位の号給に昇給させる(退職時の名誉昇給)ものである。特別昇給は、職員の勤務成績に応じて昇給制度を弾力的に運用しようとするもので、能力・業績主義を推進し、職員の士気高揚を図ることを目的としている。

2.制度の沿革

成績特別昇給は、昭和33年度から6月短縮・3月短縮の2区分により導入された。平成6年度には、職責と業績に応じた給与制度を推進するため、業績評価の評定結果を踏まえることとし、さらに、平成9年度から能力・業績主義をより一層推進し、職員の士気高揚、組織の活性化、公務能率の向上を図るため、12月短縮を導入した。これにより、成績特別昇給における短縮月数は、12月短縮・6月短縮の2区分となっている。
なお、昭和61年度から、58歳で昇給停止としている。昇給停止になると、普通昇給はもちろん、原則として特別昇給も行うことができない。58歳昇給停止導入の背景には、主として公民較差における民間給与との不均衡や、定年制の導入があった。近年、民間では、高齢従業員の給与について昇給の停止や賃金の切下げを行っている企業が、定期昇給制度をもつ企業の半数を超える状況にある(図表3-3-1)。国では、平成11年度より55歳で昇給停止とする制度を導入している。

3.制度運用の状況

普通昇給の可否については、条例・規則及び人事委員会の承認による昇給欠格基準を適用し決定している。その昇給欠格基準においては、「勤務成績」を懲戒処分や私事欠勤等の有無を中心に判定することとしており、その結果、ほぼ全職員が年1回昇給している。

4.制度的課題

現在の普通昇給では、「勤務成績」の判定を昇給欠格基準に該当するか否かという方法で行っているが、能力・業績主義の推進の観点から、そのあり方について検討する必要がある。
また、主任級以下の一般職員、係長、管理職ではそれぞれの職責・職務にかなりの相違があり、職員のモチベーション確保、職務の権限と責任に応じた処遇の実現という観点から、昇給制度全体のあり方について再考すべき時期にきている。
なお、平成10年度に昇給停止年齢の3歳引下げを職員団体に提案、協議中であるが、合意には至っていない。これについては、世代間の給与配分のより一層の適正化の観点から、導入を図っていく必要がある。

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民間における中高年齢者の給与に関する状況

4 級格付

1.制度の沿革

級格付とは、昇任を伴わずに、職員の職務の級を同一給料表の上位の職務の級に変更することをいう。同一職級内でも、重要・困難な職務に携わると考えられる職員に対し、士気高揚を図ることを目的に設けられている制度である。一定条件による自動昇格制度である、いわゆる「わたり」とは根本的に異なるものである。
級格付制度は、昭和45年度に等級格付制度として発足した。その後、昭和56年度、61年度、平成元年度の給料表改正に合わせた資格区分の改正を行っている。平成6年度から、特別昇給制度と同様に職責と業績に応じた任用・給与制度を推進するため、業績評価の評定結果を踏まえて、格付者を決定することとした。

2.制度運用の状況

級格付では、資格基準に該当する者の中から、職務内容、経験及び勤務成績等を総合的に判断してふさわしい者を選抜している。

3.制度的課題

級格付の前後において、格付者の職務内容に特段の変化がないなどの指摘も一部に見られている。職員の給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならず、昇格は本来昇任に伴うべきものである。職務の権限と責任に応じた処遇の実現、能力・業績主義を一層推進するという観点から、現行の級格付制度については再考が必要である。

5 諸手当

職員に支給できる手当は、地方自治法に制限列挙されている。これらの諸手当のうち、先に述べた人事制度の基本的方向である、職務の権限と責任に応じた処遇を実現する、能力・業績主義を一層推進するという観点から特に検討すべき手当について、以下述べることとする。

(1) 管理職手当(給料の特別調整額)

1.制度の趣旨

管理職手当は、管理・監督の地位にある職員の職務の困難性、高度の責任、実際の勤務面での特殊性などに着目し、給料表上の職務の級への格付けで十分に反映しきれない点につき、職員の給与を特例的に調整しようというものである。

2.制度の沿革

管理職手当制度は、上記の趣旨のもと、昭和32年4月1日に新設・実施された。制度発足当初の支給範囲及び支給割合は、局長(これに準ずる職を含む)及び部長並びに部長同格の職にあっては給料月額の20%、部長に準ずる職にあっては18%とされていた。
その後、昭和35年度に支給割合を改定し、局長25%、部長20%とするとともに、新たに課長にも15%支給することとした。
さらに、昭和42年度には、管理又は監督の地位にある職員の職の多様化に弾力的に対応するため、部長に対する支給割合を20%以上25%以内に、課長に対する支給割合を15%以上20%以内にそれぞれ改め、現在に至っている(図表3-5-1-1)。

3.制度的課題

管理職手当は、支給割合を職層ごとに定めている。同一職層内においても、その職務の困難性等において明らかな差異が生じている現状を踏まえると、職務の権限と責任に応じた処遇を実現するという観点から、支給割合を見直す必要がある。

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現行の管理職手当の区分表

(2) 期末・勤勉手当

(2)-1成績率

1.制度の趣旨

成績率は、職員の勤務成績に応じて支給するという勤勉手当の趣旨に鑑み、勤勉手当の支給割合を職員の業績に連動したものとすることで、職員の士気を高揚させ、組織の活性化を図ることを目的とするものである。

2.制度の沿革

成績率は、平成6年12月期に管理職に対して導入された。導入時の制度は、成績率の段階を部長級、統括課長級、課長級の職級別に、最上位、上位、中位、下位の4段階に区分し、下位減額分を上位及び最上位増額分の原資とし、その割り振りは職務記録の相対評価を使用するというものであった。
その後、平成8年6月期より、下位からの減額分に加え全員からの1%拠出分を原資とし、上位及び最上位の者へ加算する仕組みに制度を改正した。
さらに、平成10年6月期からは、全員からの拠出分を年間0.025月と改め、査定幅を拡大し業績主義を一層推進した(図表3-5-2-1、図表3-5-2-2)。

3.制度的課題

成績率は、比較的短期の業績等を給与に反映させるうえで最適な制度であり、能力と業績に応じた給与制度の推進のためには不可欠なものである。
管理職においては、制度導入後5年以上が経過し、制度自体は定着した感がある。今後、管理職のモラールアップ等の観点から、さらに制度の見直しを図る必要がある。
一般職員への成績率導入については、平成8年度に職員団体へ提案して以来、必要な原資の確保方法や適用する業績評価制度のあり方などについて、労使の見解に隔たりが大きく、未だに解決をみていない。また、期末・勤勉手当の水準について、民間の特別給との均衡を保つとの現在の基本的な考え方に立つ限り、成績率原資を別枠で付加することは今後とも考えられない。
こうした状況のもと、能力・業績主義を一層推進する観点から、新たな成績率制度を構築していく必要がある。

(2)-2職務段階別加算

1.制度の趣旨

平成2年度の人事委員会の調査において、民間における特別給の平均支給月数は、上位の役職段階ほど大きくなっているという実態が明らかとなった。一方、都職員に対して支給される期末・勤勉手当は、役職段階を問わず一律に支給月数が定められており、こうした給与配分上の民間における傾向が十分反映されず、公民の均衡がとれていない状況にあった。
そこで、総体的な支給水準だけではなく、その配分面においても民間の状況を十分に反映したものとするために、職務段階別加算制度を導入し、職務段階に応じた公民の均衡を図ることとした。

2.制度の沿革

職務段階別加算制度は、上記のような趣旨のもと、行政職給料表(一)の適用を受ける職員にあっては主任以上を対象とし、その他の給料表の適用を受ける職員についてはこれとの均衡を考慮し、原則として役職者の職責に応じて加算する制度として平成2年度に導入した。
その後、平成3年度に一定要件に該当する55歳以上の永年勤続者を加算制度の対象に加えるなどの改正を行い、現在に至っている(図表3-5-2-3)。

3.制度的課題

都における職務段階別加算制度は、主任以上の役職者に対して、その職責に応じて支給するというのが、制度本来の趣旨である。職務の権限と責任に応じた処遇を実現するという観点から、職務段階別加算制度のあり方もより厳格な視点に立って論じられるべきであり、現行制度の加算率の設定などについて、見直しをする必要がある。

(3)退職手当

1.制度の趣旨

公務員の退職手当は、主に退職事由と勤続期間とを組み合わせた区分ごとに定められており、基本的には、長期間勤続して退職する場合における勤続・功績報償的性格の給付と考えられている。
なお、退職時に都政に対する多年の功績に報いること等を目的として名誉昇給制度が設けられている。

2.制度の沿革

都においては、数次にわたり退職手当制度の改正が行われてきた。そのうち、定年退職等における支給月数についてみると、昭和60年3月31日から定年制が導入される中で、昭和61年度から平成元年度にかけて80月限度を68月限度に、次いで、平成2年度から4年度にかけて国と同じ現行の62.7月限度まで削減を行っている。指定職給料表適用者については、昭和59年度から62年度にかけて80月限度を68月限度に、次いで昭和63年度から平成元年度にかけて現行の62月限度まで削減を行っている。

3.制度運用の状況

退職手当の額は、退職時の給料月額、勤続期間及び退職事由により決定されるが、具体的な金額は最終給料月額に支給率(支給月数)を乗じて算出している。

4.制度的課題

退職手当については、国に比較し、都の方が最高支給率に到達するまでの勤続期間が短かったり(国35年、都33年)、勤続期間ごとに定められている支給率がやや高くなっている状況が見られる。
近年、民間企業では、能力・業績主義の観点から、在籍した職級等をポイント化し(職級ポイントでは、職級が高くなるにつれポイントも高まる)、その累積ポイント数にポイント単価を乗じて退職金支給額を決定する、いわゆる「ポイント式退職金制度」を導入するケースが見受けられる(図表3-5-3-1)。
都政を取り巻く厳しい環境や、国や民間企業の動向も踏まえ、名誉昇給制度の取扱いも含めて、退職手当制度について検討していく必要がある。

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