第3章 都における人事制度改革

第3章 都における人事制度改革

第1 人事制度改革の背景

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第1章で述べた市場化の進展による行政の変化、社会経済状況の変化が、人事制度の改革を不可避としている事情は、都政の場合も全く同様である。これに加えて、都の人事制度改革を議論する前提として、その背景となっている都庁に固有の事情を述べると、次のとおりである。

1 組織としての都庁の特性

第一に、都庁は1,200万人の都民生活を支え、11万余人(警視庁・東京消防庁を除く)の職員を抱える巨大な組織集団である。そのため、業務量が膨大であるとともに、政策立案から住民への直接サービス、都道府県業務から区市町村業務に至るまで、様々な業務が混在している。これに加えて、都市機能の集積に伴う情報化、国際化など、大都市行政に特有の先端的な問題にも対処していかなければならない。
このことから、組織や仕事などの面における統一的な管理には困難が伴いがちであり、次のような問題が指摘されている。
まず、巨大であるがゆえに、組織の隅々に至るまで危機意識が伝わりにくく、機動的かつ柔軟な対応が難しいという面がある。
また、内部調整に時間がかかりすぎるなど、仕事を達成する過程自体が自己目的化し、必ずしも社会的成果に直結しない場合が多い。職員の業務が、都庁内部という閉ざされた空間内で完結することが多いという問題である。日々、住民・マスコミ・議会等との対応が必要とされているのは当然であるが、国や市町村と比較した場合、内部管理などのルーティンワークが占める割合が高く、外部との接触の機会が少ないと言えよう。
第二に、業務が細分化され、業務そのものの全体像がとらえにくく、都庁全体としての一体感が弱いという面である。こうしたことから、都政が直面する課題に職員一人ひとりが主体的に考え、取り組む必要があるにもかかわらず、組織全体の問題を自らのこととしてとらえる意識に欠けた評論家的な対応が時として見受けられる。
第三に、人事制度をはじめ都庁のあらゆる制度面において、学歴・性別等 により差を設けることのない平等主義が貫かれていることである。こうした組織風土は、人材の発掘、職員の能力開発に優れていると評価される反面、平等そのものが自己目的化されるという弊害がないとは言えない。例えば、 管理職の試験選考制度について言えば、形式的な平等を追求するあまり、試験が筆記考査重視となるなど、都政を担う人材の選抜という本来の目的が等閑視されているという指摘もある。

2 職員構成の変化

職員の年齢構成をみると、東京オリンピック開催準備等のため昭和37年を中心に採用した層(平成12年度末年齢・56~59歳)と、昭和40年代の高度経済成長に伴う行政需要の増加に対応して採用した「団塊の世代」層(50~53歳)、及びバブル経済期に総定数抑制方針の下で退職動向を配慮して採用した層(28~33歳)に大きな「山」がある。一方、オイルショックに端を発した財政危機に対応すべく行財政改革を推進する中で、昭和50年代に採用を抑制した結果、37~43歳の職員層に深い「谷」が形成されている。
このような年齢構成の「山」と「谷」の存在は、今後、昇任選考における需給バランスを大きく崩すなど、人事管理のうえで深刻な影響を及ぼすことになる。特に、平成20年代前半までに「団塊の世代」が定年退職を迎えることになるが、現行の任用・給与制度は、こうした世代への対策が中心となっている。このままでは、職員の昇任管理やポスト管理、モラールの維持等に問題が生じることが懸念され、次世代以降を視野に入れた新たな制度の構築が求められている。
このような職員構成の変化に伴い、職員の新規採用と連動する新たな再任用制度の導入についても検討中であり、中長期的な視点から人事制度全般にわたり見直しを行う時期に来ているものと考える。

3 危機的状況にある都財政

都の一般会計予算と都税収入決算の推移等をみると、バブル経済期まで高水準の都税収入の伸びに支えられてきた都財政は、バブルの崩壊と長期にわたる景気低迷により、危機的状況に陥っている。
 現在都においては、すべての施策についてあらゆる角度から見直しを行うとともに、職員給与費の時限的削減等の厳しい内部努力を行っているが、都財政は、未だに財政再建団体に転落する危険性があるなど、依然として厳しい状況にある。
今後とも早急に事態が改善される見込みは乏しく、中長期的に見ても都財政の前途には容易ならざるものがある。こうしたなか、事務事業の徹底した見直しや事務執行の効率化などを通じた職員定数の削減などによる人件費総額の抑制が避けて通れない重要な課題となっている。今後は人的資源が限られるなか、少数精鋭で最大の効果をあげるよう、人事制度を構築し運用していくことが必要となっている。

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第2 人事行政の問題点

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いま述べた都庁に固有の課題に対応するためには、都制度のあり方も含めた区市町村との役割分担、都庁の組織のあり方、仕事の進め方など都政全般にわたる総合的な改革が必要であるが、その一環として、人事制度の見直しも不可避なものとなっている。
職員の人事管理の観点からみると、都全体として職員の本来持っている能力が総体としては未だ十分に発揮されていないと考えられる。近年、幅広い視野から議論する気風が衰え、画一的なものの見方・考え方に傾きがちであるという指摘もある。幹部職員については、自らの判断と責任で職務を遂行する、自立した視野の広い管理職層が薄くなっていないか危惧がある。また、一般職員については、各行政分野でプロフェッショナルとしての力量を備えた職員集団の層が薄くなっているのではないか懸念されている。
こうした現象と関連して、次のような問題点も指摘されている。
第一に、行政に避けられない問題であるが、民主的な自治制度や予算主義の要請によって、行政としての中立性・公平性、さらには安定性・透明性の確保が優先され、職員の自由で能動的な仕事への取組が制約される場合があることである。民間企業と比べ、人事異動の必要等から、個人に責任と権限を持たせて最後まで仕事を遂行させることが難しい。また、巨大組織という面もあって、事業系部署よりいわゆる官房系部署に、出先(現場)職場より本庁職場に、権限が集中しがちであり、これを優位とする組織風土が醸成されている。こうした行政に特有の状況の改善は容易ではないが、問題を自覚し、民間企業と比べたマイナス面をできるだけ少なくしていく必要がある。
第二に、従来と比べても各行政分野での専門性が低下していると指摘されていることである。これにはいろいろな原因が考えられるが、人事異動の問題とも密接に関連している。結果的には概ね2~3年程度で一律に異動が行われる場合が多い。また、人事のローテーションについても、専門的な職員集団を積極的に育成する視点が弱いと指摘されている。例えば、主任級職昇任時に原則として他局部署へ異動するという現行の制度について、その影響を懸念する声もある。
第三に、能力・業績の評価に基づいて、職員を育成し処遇していくシステムが徹底していないことである。「評価」とは、本来各人の適性に応じた育成を図るとともに、成果に応じて処遇するためのものである。「結果の平等」に傾斜しすぎることなく、努力して成果をあげた者が報われる、中長期的に見ても明確な処遇差が生じるシステムとしていかなければならない。
第四に、地方公務員制度について指摘してきたところであるが、都庁においてもまだ、閉鎖性が強いことである。行政の市場化が進むなか、積極的に仕事にチャレンジし、最後まで責任を持つ姿勢が今後ますます求められていく。都はこれまでも、管理職選考に合格した職員の民間企業への派遣研修や、民間企業からの研修生の受入れなどに取り組んできた。今後は、新しい工夫も講じながら、民間との交流をさらに推進する必要がある。

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第3 今後の人事制度の方向

1 人事制度改革は都政にとって避けて通ることができない

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東京都では、時代の潮流や我が国が直面する問題状況が先端的に現れるのが常であり、人事制度に関しても例外ではない。
都はこれまで、時代の要請に応じて、人事制度の改革に取り組んできた。主任級職の設置、自己申告・業績評価制度、再雇用制度など現行の人事制度「団塊の世代」を中心とする職員層のモラールアップや組織活力の維持、能力と業績に応じた人事管理の推進などを主な目的としたものであり、今日まで一定の成果をあげ、都政運営を支えてきた。
しかしながら、これまで述べてきたように、今再び、人事制度を取り巻く環境が大きく変わりつつある。
市場化の進展や社会経済状況の変化などにより、行政においても民間企業と同様に人事制度の見直しを迫られている。例えば、年功制の見直し、成果に応じた処遇の徹底、中途採用の拡大などである。
都においては、職員構成の大きな変化や都財政の危機的状況などが、大きな制約要因となる。例えば、都財政の厳しさに関連して言えば、人件費の抑制は今後必須であり、限られた人的資源を最大限有効活用しなければ、経常的な業務の執行も難しくなるであろう。年金制度の改革による支給開始年齢の引き上げは、平成13年度以降確実に実施される。新再任用制度の導入など、高齢者雇用システムの抜本的な改革なくして、これに対応できないことは明らかである。
こうした新しい時代状況に対応するためには、昭和61年度の改正で打ち出した方向をさらに徹底するとともに、新しい課題への対応が必要となる。
現行の人事制度の枠組みを将来にわたって維持していくことはもはや不可能であり、人事制度の改革は都政にとって避けて通ることができない重要な課題である。

2 基本的考え方

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(1) 職員一人ひとりを活かす人事制度をめざす

人事制度にあっては、相矛盾する要素のバランスの確保が重要である。例えば、閉鎖性と開放性、年功による処遇と業績による処遇、平等性と競争性、総合性と専門性、こうした各要素をどうバランスさせるかが課題である。
都の人事制度にあっては、これまでどちらかといえば、前者にウエイトがかかってきたと言える。これは日本型人事制度の長所と考えることもでき、都庁においてもこれまで一定の役割を果たしてきた。
しかし今、行政をめぐる環境が大きく変化するなか、こうした従来の制度のあり方が結果的にマイナスをもたらすようになっていることも否定できない。組織の閉鎖性、年功に重きを置いた処遇、結果の平等への傾斜、専門性の低下という面が見られることは残念ながら事実である。
現行人事制度の基本的な原理を変える必要性はないが、制度を構成している諸要素のバランスをシフトさせる、すなわち、行き過ぎた点を改める、いわば「振り子を逆に振る」ことで、時代の要請に応じた人事制度を構築する必要がある。
言い換えれば、どちらかというと職員集団の秩序を優先させてきた人事制度を、職員個人の能力・業績をより重視する方向にシフトさせていくこ とである。今後の人事制度の重点を、いわば「集団」から「個」へ移し、 職員一人ひとりの資質の向上を図り、能力を最大限に活かすことを目的に制度を構築すべきである。

(2) 若い力を活かし、中高年の知恵と経験を活用する

これまでの都における主な人事制度改革は、「団塊の世代」対策であったと言っても過言ではない。
この「団塊の世代」が今後大量退職を迎えるが、財政状況から、若い職員が大きく増える見込みは乏しい。こうしたなか、時代の先行きは不透明であり、新しい発想やチャレンジ精神なくしては、都政の新しい時代を切り拓くことはできない。
若い人のやる気を引き出し、潜在的な能力を十二分に発揮させる人事制度の構築がかつてないほど強く求められている。
困難な課題に挑戦したうえでの積極的な失敗は評価し、若い層の多様な能力・適性を引き出すことができる人事管理を推進していかなければならない。
他方で、人生80年時代を迎え、年金制度の改革が進むなか、都庁においても中高年層の活用が重要な課題となる。都政で長年にわたり培った中高年層の知恵と経験の活用なくしては、東京が直面する行政課題に取り組むことは難しい。

(3) 職員全体の生産性を向上させる

都財政は危機的状況にあり、将来とも大きな改善は望めない。人材の供給が限られているなか、職員一人ひとりがコスト意識を持ち最大限の成果をあげることが必要である。少数精鋭は時代の要請である。
そのためには、職員一人ひとりの意識や都庁全体の組織のあり方、仕事の進め方も重要であるが、人事制度の仕組みそれ自体が、生産性の向上を指向するものとなっていなければならない。
もとより、現在の都庁の優れた面である機会の平等の重視を放擲する必要はないが、ここでも制度のバランスをシフトさせるべきである。生涯を通じた人事ルート、人事管理のサイクルを誰の目にも明らかなものとしたうえで、職員一人ひとりの能力を相互の競争、切磋琢磨の中で最大限に引き出すことが必要である。努力し成果をあげた者こそが報われる人事制度となっていなければならない。
仕事の実績が正しく評価され、そのことが処遇に結びつき、職員の更なる意欲を引き出し能力開発が行われる、ダイナミックで生き生きと循環する人事管理のサイクルを構築していく必要がある。

(4) 新たなモラールを確立する

第2章で述べたような、これまでの地方公務員の世界のマイナス面は、都庁においても無縁ではなかった。どちらかといえば、閉ざされた競争の少ない社会の中で、集団の秩序を優先しながら職員一人ひとりが仕事をしてきたと言えよう。
いまや、行政の市場化が進み、社会経済状況が大きく変わるなか、職員の意識や都庁の組織風土も大きく変わることが求められている。
当然のことながら、住民サービスよりも職員の便宜が優先したり、職員の処遇それ自体が目的となるようなことがあってはならない。
また、全体の奉仕者として公務員は、常に住民の視点を意識し、高い倫理観を保持していかなければならない。新しい時代の地方公務員として都民に信頼される職員をめざしていく必要がある。
こうした社会的要請に応えるためには、仕事本位のモラールを確立し、人事制度がこれを支えていくことが重要である。
本来「仕事」とは、問題解決である。与えられた業務をこなすだけではなく、時代の変化を機敏に察知しながら、問題そのものを発見し、柔軟な発想と旺盛なチャレンジ精神を通じて、その解決を責任をもって図っていかなければならない。
都庁全体が「仕事により連帯し、仕事により評価され、仕事により処遇される」職員集団となり、職員一人ひとりが仕事を通じて自己実現を図っ ていく。これを新たなモラールとして確立し、都庁全体の一体感を醸成していくことが必要である。

3 人事制度の基本的方向

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行政を取り巻く環境条件の変化、地方公務員制度のあり方、そして本章で述べた都における人事制度をめぐる諸状況等を踏まえ、今後、以下の基本的な方向に従って人事制度を構築していく。

I 採用から退職、さらに定年後の新再任用等の期間までを一体の制度として整備する

高齢者雇用制度の改革、とりわけ新再任用制度の導入を契機に、生涯を通じた任用・給与等の制度を再構築する。
また、新再任用制度を現役職員の任用・給与制度と一体のものとして構築する。

II 職務の権限と責任に応じた処遇を実現する

職級ごとの職責を一層明確にして、「ポスト重視」の人事管理を展開し、それに見合った給与上の処遇を行い、職員の士気高揚・組織の生産性の向上を図っていく。

III 能力・業績主義を一層推進する

「仕事」本位の考え方を基本に、職員の有する権限と責任の度合いに 応じた的確な評価を行い、その結果に基づき職員の処遇と更なる能力開発・活用を図り、責任ある職務の遂行、組織の効率的運営をめざしていく。

IV 複線的な任用・育成コースを整備する

職員が自己の責任で能力・適性や意向等に基づき選択できる、総合性と専門性の両立をめざす複数の任用コースを設定し、それに応じた人材 の育成を行い、職員の更なる能力開発・活用、仕事における自己実現の機会の拡大を図っていく。

V 都庁を外部に開かれたものとする

幅広く民間企業等との人事交流や人材登用を行い、民間企業等経験者の職務経験・専門性等を活用して、都庁という働く職場をより開かれたものとしていく。

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