第2章 地方公務員制度を考える

第2章 地方公務員制度を考える

第1 危機にある地方公務員

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今日、地方公務員に対する社会の評価は極めて厳しい。
地方公務員は、成績主義の原則により、競争試験や選考などの厳格な能力実証を経て採用される。地方公務員の資質は本来高いものと考えられ、現実にも戦後の大きな社会経済の変動に対応しながら、地方自治体の能率的運営や住民サービスの向上に大きな役割を果たしてきた。
しかし、これまで地方公務員は、非市場性を特色とした行政の枠の中で、いわば「独自の世界」を形成してきた。そこでは外部との競争は少なく、公務員同士においても競争よりはむしろ秩序が重んじられてきた。
行政の役割が明確であり、住民も行政に依存し、行政を信頼していた時代においては、こうした特色も「公務の特殊性」の名のもとに説明され、地方公務員自身もそれを当然として受け止めてきた感がある。
しかし今日では、まさにこの「閉鎖性」や「非競争性」が、住民の不信感を招くとともに、地方公務員の意識について、特に民間企業と比較しながら、次のような問題を浮き彫りにしてきたと言える。
第一に、危機意識が希薄なことである。「独自の世界」に閉じこもり、外部環境を正しく認識し、自らの立場を理解して迅速な対応をとる力量が不足している。
第二に、コスト意識が低いことである。いわゆる生産性の概念が希薄であり、費用対効果を踏まえて成果をとらえること、すなわち、最小の経費で最大の効果をあげねば、という問題意識が弱い。
第三に、切磋琢磨の意識が乏しいことである。競争の中でお互いを高めていく機会が少なく、結果的に専門性や政策構想力等、地方公務員の資質の向上が妨げられている。

第2 今日における地方公務員制度の意義

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こうした地方公務員の問題は、地方公務員制度のあり方と密接に結びついており、ここでは二つの問題が指摘できる。
第一は、身分保障の規定や平等取扱いの原則など、地方公務員制度の根幹をなす諸要素と、地方公務員の「閉鎖性」や「非競争性」という負の側面との因果関係の問題である。
そもそも地方公務員制度に定める職員に適用される基準は、全体の奉仕者としての地方公務員が、その地位と責任を全うするための規定であり、公務に携わる者の心得であるとともに、仕事の中で自己実現を図っていくための規範をうたったものと言える。
そういう視点で見れば、身分保障の規定は、より良い公務の安定的な提供を保障するものであり、平等取扱いの原則は、機会の平等を保障することで、人材の発掘、能力の開発に資するものである。
また、職務専念義務や秘密を守る義務など、職員の服務(義務)に関する規定は、職員の権利規定とのバランスの中で、公共の意識を強く持つこと、高い倫理観を持つことを求めている。
したがって地方公務員制度は、単に「地方公務員である」ことを理由に、権利義務や身分取扱いそれ自体を保障したものでは決してない。地方公務員制度が定める職員に適用される基準は、人事行政における最低限の規範とみるべきである。それ自体を自己目的化した画一的な人事行政を行うことは、むしろ地方自治の発展を妨げるものである。
以上の点を踏まえると、地方公務員制度を背景とした、今日の地方公務員の問題は、制度そのものではなく、制度本来の趣旨を忘れた解釈や運用の結果ではないかと考えられる。
すなわち、身分保障制度の表面的な解釈が地方公務員の世界に「甘え」をはびこらせ、平等取扱いの原則の機械的な運用が「機会の平等」よりも「結果の平等」を重視する傾向を助長させたとは言えないだろうか。
第二は、地方公務員制度のあり方そのものが、新しい時代の変化に対応しうるのかという問題である。
現行制度の発足から約50年が経過したが、この間、市場化の進展による行政の変化や本格的な少子高齢社会の到来、財政危機といった社会経済状況の変化など、地方公務員をめぐる環境は大きく様変わりしている。
地方自治体の能率的運営や住民サービスの更なる向上を今後とも図っていくためには、地方公務員に厳しいコスト意識が求められ、行政運営における効率性の徹底が従前にも増して必要となる。また、時代の変化に即応できる人材を確保するため、外部との交流も積極的に行い、行政運営の開放性が指向されなければならない。
現行地方公務員制度について、本来の趣旨・理念は尊重しながらも、制度の具体的なあり方が、時代の要請に則しているのか検証が必要である。
特に現行制度においては、地方自治体の採りうる人事行政の手法とその範囲が既に定められている場合がある。市場化や地方分権が進展するなか、これまでの終身雇用に代表される長期的視点に立った人事管理に加え、行政運営のスピードや柔軟性といった今日的要請にも充分対応しうるよう、職員の人材確保の面では、任期を定めた期限付任用など、機動的な方策が求められてくる。この点については、最近になって研究職に門戸が開かれたものの、時代の要請を踏まえれば、今後は、行政系を含めた幅広い分野に導入することも必要と考えられる。

第3 積極的な人事行政へ

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以上、述べたように、地方公務員制度については、「閉鎖性」や「非競争性」という負の側面を打破し、制度本来の趣旨に立ち返った人事行政を展開するとともに、新しい時代に対応した公務員制度のあり方を確立することが重要である。
平成11年4月に、国の地方公務員制度調査研究会は、「地方自治・新時代の地方公務員制度-地方公務員制度改革の方向-」を発表した。
そこでは、さきほど指摘した問題に加え、地方公務員制度における国と地方の関係や地方公務員法等の法改正に取り組むべき事項、地方自治体における人事管理改革の方向性について具体的な見解が述べられている。特に、国との関係では、法律で定めるべきものは制度の基本的枠組みにとどめ、地方自治体の自主立法を活用する範囲を拡大する必要があるという方針を打ち出している。また、人事管理改革の方向性については、地方自治体の能力・実績を重視した人事管理への転換や政策形成能力の開発など、地方自治体自身が取り組むべき課題について、幅広い観点から様々な提言がなされている。
これらは地方自治体における、積極的な人事行政の展開に向けた重要な指針となるべきものである。
一方、地方自治体により人事行政をめぐる事情は様々である。特に東京のような大都市では、自治体の組織や職員数が大規模であるとともに、市場化の進展や社会経済状況の変化などの影響を深刻に受けることになる。そこでは、民間企業で取り組まれているような、大胆で思い切った人事改革を行う必要性も出てこよう。
地方自治体が、あくまで住民の理解を得てのことであるが、自己の責任において、従来の枠にとらわれない、地域の実情に応じた人事行政を展開できるよう、可能な限り地方自治体の裁量権が拡大されることを望みたい。

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