第1章 行政の変容と人事制度の改革

第1章 行政の変容と人事制度の改革

第1 市場化の進展による行政の変化

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いうまでもなく、近代国家は19世紀のイギリスを典型とする、いわゆる夜警国家に始まる。自由放任主義の下、社会問題の解決には民間の自主的な努力が期待され、行政の任務は必要最小限に留められた。
20世紀に入って、景気変動の振幅の拡大、失業や貧困の深刻化など、社会・経済の多くの領域で自律的な秩序維持が困難になる中で、国民生活を安定・充実させるために、行政が積極的に関与することが求められ、公務員には高い専門的知識・技能が必要となった。
我が国では、国家の占める比重はさらに大きい。明治以来一貫して、とりわけ戦後においては、行政が市場に対して優越した地位を占めてきたと言えよう。
行政の提供する公共的なサービスは、非市場性を本質とするものとされ、公共の秩序維持や安全の確保から、福祉サービスなど各種サービスの供給に至るまで、行政が広範な役割を担ってきた。
今、こうした状況は再び大きく変わりつつある。
行政ニーズの多様化・高度化、情報通信革命の進展による行政と民間の情報格差の縮小などを背景に、行政と市場の関係は市場優先の方向にシフトし、また行政運営にも市場原理の導入が求められるようになっている。
民間にその提供を委ねたり、民間と競合する分野が増加するとともに、行政運営についても、民間企業と比較して、効率性、機動性、透明性、さらにはサービスの質といった要素が常に意識されるようになっている。
もとより、「全体の利益」「公共の福祉」の実現を使命とする行政の存在意義が揺らぐことはないが、こうした市場化の進展が、行政の役割を量的・質的に変化させ、公務労働のあり方にも大きな影響を及ぼしており、人事制度の見直しを促している。


第2 社会経済状況の変化

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行政の役割の変化や人事制度の見直しは、市場化の進展だけから求められているわけではない。
時代の転換期を迎え、行政を取り巻く社会経済状況が大きく変化している。
第一に、本格的な少子高齢社会の到来である。若年労働者が確実に減少し、「団塊の世代」を中心に高齢者が相対的に増加していく。高齢者就労のあり方が注目されるなか、高齢者の知識や経験を貴重な人的資源として活用していかなければならない。一方、若い世代を中心に勤労に対する意識が変化し、キャリア志向や実力主義への選好、また転職を前向きにとらえる考え方が広がっている。若い人の持つ感性や発想力、チャレンジ精神を活かす仕組みを人事管理に積極的に取り入れていくことが社会的課題となっている。
第二に、財政危機である。政府が経済成長の成果を国民に分配していれば事足りた時代は完全に終わりを告げた。公的年金制度もこのまま維持していくことは困難であり、すでに支給開始年齢の段階的な引き上げが決まっている。財政の制約が厳しいなか、人的資源の投入を最小に押さえつつ、住民のための政策の立案と実施に最大の成果をあげることが重要な課題になっている。
第三に、地方分権の進展である。地方分権の進展は、自らの判断と責任の下に自ら行動するという、地方自治体の自主性・自立性の確立を促すと同時に、政策面で自治体間の競争を促進させる。出来合いの答えが用意されていない中で、まさに地方公務員の力量が問われる試練の時を迎えており、その問題意識、問題解決能力、さらには政策構想力が試されている。
第四に、住民意識の変化である。行政ニーズが高度化・複雑化する一方、厳しい社会経済状況、ボランティアやNPOの盛んな活動などを背景に、行政に対する住民の関心が高くなっている。一連の公務員の不祥事や社会常識とかけ離れた慣行への批判とも重なって、公務員への見方が一段と厳しさを増している。


第3 人事制度の改革へ

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市場化の進展、社会経済状況の変化など環境条件の変化は、行政のみならず民間企業の置かれている経営環境にもあてはまる。このため、民間企業では人事制度の構造的な変革を迫られ、すでに組織の簡素化・フラット化、業績評価の徹底とそれに応じた賃金の配分、中途採用の拡大、社員の自己能力開発の支援など様々な取組が始まっている。
国においても、公務員制度のあり方とその運用全般の見直しについて、行政課題の複雑高度化への対応、簡素・効率的で機動的な行政の実現、国民の信頼の再構築、雇用環境の変化への対応といった視点から、すでに改革に向けた検討が開始されている。
地方公務員の人事制度にあっても、事情は民間企業や国と同様である。中長期的な視点に立った改革が避けて通れないものとなっている。

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