80年前の夏休みの宿題帳 ~公文書館のイチ押し資料

夏休みと言えば反射的に「宿題」という言葉がうかんでくるくらい、夏休みと宿題はきってもきれない関係にあります。

夏休みと宿題。わが国に近代的な学校制度が導入されて以来、幾世代にもわたって、親と子が、ときに対立し、ときには手を携えて取り組んできた暑き夏の日の闘いの記憶。

今回、ここでご紹介するのは、今から80年前に文部省が実施した、夏休みの宿題に関する実態調査の資料です。東京府文書のなかの、「大正13年・学事・学校衛生・冊の98」という冊子に綴られています。

夏休の練習(表紙)

夏休みの宿題調査

大正13年(1924)7月11日、文部省学校衛生課から東京府府知事にあて、学校衛生上の参考にしたいので、東京で夏季休業中に宿題を出している小学校のうち6校を選び、学校別にその実態を、8月10日までに調査・回答してほしいという依頼がありました。依頼文は、いわゆる蒟蒻版(こんにゃくばん)で印刷されていて、宛名の東京府知事名だけが墨書きされていることから、おそらくこの調査は、東京府だけでなく、全国の道府県を対象になされたものだと思われます。

つまり、文部省は夏休みの宿題に関する全国調査を行ったわけですが、果たしてその報告書は残っているのでしょうか。国立国会図書館の書誌情報データベースで検索すると、文部大臣官房学校衛生課編として、「夏季に於ける体育的施設の状況調査」(大正15年、85p)、「大正七、八、九、三箇年に於ける全国夏季体育的施設」(大正11年、171p)という2つの報告書がヒットしますが、夏季宿題に関するものはありません。報告書の所在等については、教育史を専門とされている方々には周知の事実かもしれませんが、ここでは、国会図書館には保存されていないものの、多分夏季の宿題調査についても報告書にまとめられたのだろう、くらいで止めておきましょう。

調査項目は、宿題の種類(イ、単に学科を復習するよう命じたもの ロ、学校より課題を提出したもの ハ、夏季練習帖、夏季日記帖などによるもの)、各学科別に宿題に費やす時間数、宿題を出すにあたって特に注意した事項などからなっています。

東京府は、東京市内の余丁町尋常小学校(現在の新宿区)、富士尋常小学校(現在の台東区)、千代田尋常小学校(現在の中央区)、荏原郡芳水尋常小学校(現在の品川区)、北豊島郡の板橋尋常高等小学校(現在の板橋区)、八王子第三尋常小学校(現在の八王子市)の6校から資料を提出させて、それをもとに回答書をまとめ、提出期限から1か月程遅れた9月9日に文部省に送付しています。ここでは、各校から提出された資料のうち北豊島郡板橋尋常高等小学校の分を紹介してみましょう。(原文カタカナを読みやすく平仮名に改め、適宜句読点を付しました。)

夏期休業中に於ける宿題に関する件
一、尋常一学年より高等科二学年に至るまで全部の児童に対し夏期休暇練習帖を使用せしむ(別冊印刷物八冊の通り)。
二、其の他各学年及び各学級にて補習課題を命ず。
三、尋常科第三学年以上の児童に随意に児童図書室にて読書せしむ(学校内備付の児童文庫)。
四、休業日中に二回各学年共登校せしむ(健康状態調査、宿題の進度調査の為)。
五、尋常科五学年以上の男女児有志の児童を石神井水泳場に引率して三週間水泳をなさしむ。
六、宿題に費す時間左の如し。
一年 四十五分  二年 一時間
三、四年 一時間半 五、六年及び高等科 二時間
七、宿題を課す時及び休業中の注意事項は、主として児童に起案せしめしを印刷物として配付し、実行せしむ。

夏期休暇練習帖

夏休の練習 第六学年(表紙)

他の学校もおおむね似たりよったりの内容で、ほとんどの学校が夏期休暇練習帖を使用していると回答している点が注目されます。東京の場合、東京府師範学校同窓会が編集した「夏休の練習」を使用していたようです。奥付をみると、発行年月日は大正13年6月15日となっていて、正価金8銭(各学年共通)とあります。

第3学年から第6学年までのものが残っていますので、その中味の一部を画像でお示ししましょう。

夏休の練習 第三学年

夏休の練習 第三学年

夏休の練習 第四学年

夏休の練習 第四学年

夏休の練習 第五学年

夏休の練習 第五学年

夏休の練習 第六学年

夏休の練習 第六学年

夏休みの心がまえ

練習帖によらない宿題事例や心がまえについては、八王子第三尋常小学校二年生の児童たちが、担任の先生からわたされた「なつやすみについて」というガリ版刷りの刷り物が残っているので、それも併せて紹介します。

       なつやすみについて
 ○けふから なつやすみ です。
  おやすみに なつても いつもの やう に き
  まりよくして なまけごころ を だしては い
  けません。 あさは げんき よく はやく
  おきなさい。
  まいあさ なつやすみ中 の こころえ を
  大きなこゑ(え) で よんで そのとほり おまも
  りなさい。
  きめられた おさらひ は あさの すずしい
  うち に なさい。
 ○やすみ中 がくかうへ くる日
   七月二十八日  八月十一日  八月二十一日
 ◎おさらひ の しかた。
   よみかた
    まい日一くわづつ二どよみ一どかきとりなさい。
   さんじゅつ
   1.すうじを101からまい日三十づつかきたして
     1000までおかきなさい。
   2.べつのかみのしきだいをまい日五だいづつ
     おやりなさい。
   大正十三年七月二十五日
             八王子第三尋常小学校第二学年受持

「受持」(うけもち)とあるのは、今で言う「担任」の先生のことですね。7月28日には、一年生の担任から、学科のなかで比較的劣っている「読方」と「算術」について、夏季休業中に家庭でも注意して面倒をみてやってほしいという趣旨のガリ版刷りのお手紙が、宿題とともに、保護者あてに送られています。そこに添付された宿題は次のようなものでした。

       ヨミカタ
  マイニチ ナマケズ オヤリナサイ
  ホン ヲ ヨメル トコロ マデ オヨミナサイ
  ツギノ ジ ヲ ヨミナガラ オカキナサイ

  ツクヱトホン   スズシイカゼ
  ミギ ヒダリ   アズキ マメ
  ゲタニハナヲ   クモガトブ
  フジサン   ウチノヰド
  オテラノヤネ   ヤセタロバ
  ナルヨビコ   ヌレタソデ
  ワタシブネ   ケムルエダ

       サンジュツ
  マイニチ ナマケズ オヤリナサイ
  マイニチ スウジ ヲ 1カラ10マデオ
  カキナサイ
  マイニチツギノ シキ ヲ オヨミナサイ
   9+1=10 8+2=10 7+3=10 6+4=10
   5+5=10 4+6=10 3+7=10 2+8=10
   1+9=10
   (カアド ヲ ツカツテ ヤツテ ゴランナサイ)
以下、足し算引き算の計算問題が2枚ありますが、これは省略します。
*蒟蒻版(こんにゃくばん)
もと蒟蒻を用いたからいう。謄写版の一種。ゼラチンまたは寒天で造った版。特殊インキで書画を書いて貼り、暫くして剥がすと原版ができる(岩波書店『広辞苑』第1版)
宿題帳が綴じ込んである公文書の冊子名と請求番号

東京府文書「大正13年・学事・学校衛生・冊の98」

請求番号 
305.E6.7

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